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契約書3つの意義(2)

問題を解決できる契約書

この観点は、契約に際してのリスクマネジメントと密接に関わります。

契約に関する問題の最も典型的なものは、相手方が契約内容を守ってくれないということであり、そうした場合の問題解決として考えるべきことは、基本的には、債務を履行してくれるよう請求する、あるいは見切りをつけて契約を解除する、さらにそれと合わせて損害賠償を請求することです。

そして、例えば債務の履行を請求するとして、解決手段として裁判外で相手を説得する方法を採るなら、契約書は相手方がその約束を守らなければならないことについて相手の反論を許さないものになっていなければなりませんし、裁判で争う場合であれば、契約書がそのような約束があったことの証拠となるものになっていなければなりません。

ところが、売買契約や賃貸借契約などの極めて典型的な契約ならともかく、少し込み入った契約になると、債務内容がきちんと確定できる契約書を作るのは意外と困難です。なぜなら、非常に典型的な契約は別として、契約の債権・債務の内容は契約ごとに個性のある場合が多いため、ひな形を切り貼りするだけで十分なものは作成することは難しく、契約の目的を達成するために当事者双方がどのようなことをしなければならないのか、契約書作成者が自分で考え、法的枠組みに沿って構成しなければならないからです。

この点、最近しばしば見かけるのが、「甲の役割」「乙の役割」といった条文タイトルをつけて、当事者双方の役割分担を記載した契約書です。確認したわけではありませんが、「債権」「債務」では分かりにくいということで、当事者の役割を書けばよいのだと指導している本や講座があるのかもしれません。

たしかにこれは発想としては分かりやすく、なるほどと思わせる面もあったのですが、現実にそのような契約書を複数見てみると、似て非なる契約類型の区別や、債務と努力目標の区別が非常につきにくいという印象を抱かずにはいられませんでした。
例えば、代理店契約と販売店契約とがごちゃ混ぜになったようなものになっていたり、委任契約と請負契約との中間的なものらしいけれどもどちらの色彩が強いのか不明確なもの、全体として努力目標のようなものが列挙されていて何をどこまでやれば債務を履行したことになるのか分からないものなどです。

つまるところ、そのような考え方は契約の目的を達成するために必要なことをリストアップするのには役立ちますが、リストアップしたものが法の枠組みに沿うものだとは限らないということなのです。

そのように債務内容がはっきりしない契約書では、債務の履行を請求することはおぼつきません。加えて、債務不履行を理由とする契約解除も、債務不履行に基づく損害賠償も、相手方が債務を履行していないことを要件にしているわけですから、同様におぼつかなくなってしまいます。

契約に関する問題としてもうひとつ典型的なものを挙げると、そもそも契約書上に問題を解決するための規範が何も書いていない、というものがあります。それも、その問題自体全く予測不可能だったというのではなく、「○○の場合には、当事者双方で誠実に協議して決める」というように、「○○」という問題が起きることが予測できているのに、単に後から協議するということだけが書かれているものが非常に多いのです。

これは、ひな形の切り貼りでは処理しきれないために、ついつい問題を先送りしてしまう場合もあるでしょうし、実際に不確定要素があるために契約内容を確定しきれない場合もあると思います。

しかし、当事者間の信頼関係が維持されている場合で、なおかつその問題の落としどころについて当事者の思惑がそれほどずれていない場合であれば、このような問題先送り的な契約内容となっていても大きな問題とはならないかもしれませんが、いざ対立関係が生じてしまうと、単なる誠実協議義務の規定は何の意味も持たないと言ってよいでしょう。

このような場合、たしかに問題を先送りしなければならない理由がある場合も多いのでしょうが、私としては、後の争いを極力避けるために、例えば、「原則として○○とし、当事者の一方に異議がある場合には別途協議する」「○○については、××を上限として協議して定める」というように、争いの余地を小さくしておくことが望ましいと考えています。
そうした「原則として○○」であるとか「××を上限として」というようなことも書けない場合、その理由が、本当に不確定要素が確定するまでは何も書けないのか、それとも単に問題を先送りしてしまっているのかよく考えてみる必要があると思います。

上述の例は極めて典型的なものですが、契約を巡るトラブルは枚挙にいとまがありません。その全てを契約書だけで予防または解決することは不可能ですが、予め想定できるトラブルを可能な限り予防または解決できるようにしておくための手段として、契約書をしっかりとしたものにしておくことは極めて有意義です。

なお、上記のような内容は、リスクを軽減するためには望ましくても、現実の契約交渉過程で「原則がこう、例外がこう」などの多少なりともややこしいい議論をするのは相手を警戒させてしまうことにもつながりかねないのも事実です。
特に相手から提示してきた契約書への修正を求める形で話しを進める場合はそうでしょう。
そこをなるべく通していくのが交渉上の戦略であり、契約締結のためにどうしてやむを得ない範囲で、かつ現実的に負える範囲でリスクを取っていくのが契約締結に関するリスクマネジメントということになります。

そのために鍵になるのは、その契約でどのようなトラブルが起きる可能性があるのかをなるべく早めに想定して、そのトラブルを出来る限り防ぎ、また、トラブルが起きた場合でも出来る限り早く解決できる方策を考える、そして出来れば相手から契約書を提示させるよりは、こうした方策を含む契約書を自分の方から提示することです。

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